「新・ニッポン人の食卓」で長年の謎が解けた

久米宏が司会の「新・ニッポン人の食卓」を見た。スタジオには大勢の70歳代の女性が集められていた。その年代の女性と、娘である3,40歳代の女性がつくる料理がテーマである。

まず、娘世代の作る料理が紹介された。コンビニで買ってきた何種類もの惣菜をきれいに盛り付ける人、業務用スーパーで買った冷凍野菜のみを使って、まったく包丁を使わず料理を作る人、子供が嫌がるから、と、ラーメンに具(野菜)をいれない「素ラーメン」を作り、それで夕食を済ます人、自分達夫婦は朝食を食べないのに、娘(小学生)が学校で”早寝早起き朝ごはんが大事ですよ”と「洗脳」されて朝食を食べたがるので、牛乳と、16粒の乳ボーロを朝食として出す母親、など、いろいろなケースが紹介された。

コンビニのお惣菜で8年間やってきた主婦は、焼き鮭にレモンを添えることで、手作り感を出しているという。夫は、妻の料理が「我が家の味」として体になじんでいる、と料理をほめ、コンビニの惣菜を温めただけだとは全く気づいていないという。

いつもはちゃんと作っていて、たまに手抜きをしたい時の料理かと思いきや、それが日常である、となると、有り得んかなあ、と思いながら続きを見る。

今度は70代の女性の番である。VTRで家庭での食事風景が映され、料理上手な人が多いように思えたが、「じゃあ、あなたは自分の料理を娘に伝えましたか?」と聞かれると、ほぼ全員が「いいえ」と答えた。聞かれれば教えたが、自分から進んで教えてはいないし、教えようとも思わない、という。

その背景として、70代の女性は小学生の時分、終戦を迎え、食料事情が極端に悪く、豆のカスや芋づるの混じったご飯、大根飯などを食べさせられ、自分の中に「家庭の味」というものがない。そして、終戦後、自由というものがなだれ込んできて、自由の素晴らしさを知っているので、自分の子供に自分の価値観を押し付けるのが嫌なのである。だから、自分の料理も教えない(おしつけない)。

そして、その年代の人たちが結婚するころに、インスタント食品が急激に普及してきて、便利さに飛びついた。政府の方針で、「米を食うと頭が悪くなる」「肉を食べないと体が大きくならない」と食事が欧米化していった。70代の人々は、特殊な経験をした世代なのである、との事であった。

さて、私の母も70代半ばである。私は40代なので、今日の番組のテーマそのものである。私も母に料理を教えてもらった覚えが無い。小学生のころ、土曜日(まだ半日授業があったころだ)の昼は、必ずインスタントラーメンに肉と野菜を入れたものだった。朝は、牛乳、バナナ、菓子パンだった。母は、料理が上手とはいえないタイプだったのに、私が結婚する前後、自宅で料理をつくったら、娘の料理の欠点ばかりを指摘するので、「教えてもらってないからね!」と反発した。私の母だけが変っているのかと思っていたが、そうではないのか??とTVを見終わってもまだ半信半疑だ。長年、不思議に思っていたことが、偶然TVを見たことで解決するとは。(完全ではないが)

母親と娘は年頃になったら、台所に2人で立って、母の味を娘に伝える、とか、煮物や煮魚が「お袋の味」とかいうのは、TVドラマの中での幻想なのかも知れない。自分も「お袋の味」といわれる料理をよく作るけど、自分が本で見た作り方をアレンジしたものだ。自分の味、である。
コンビニの惣菜を8年間、「我が家の味」と思い込んできた、番組の中の夫は、あんがい母親にも買ってきたお惣菜を食べさせられてきたのかもしれないなあ、と勝手に思い、男性よ、幻想を捨てよ、と忠告したくなった。
そして、各家庭がコンビニ惣菜や冷凍食品を使うのは自由だし、全然いいと思うけど、自由過ぎるのはどうなのかなあ、とも思いました。